0211
「弁慶、お前いくつになった」
唐突に聞かれて、弁慶は今日が自分がこの世に生まれ落ちた日なのだと気付いた。
それと同時に、丁度一年前も全く同じ言葉を耳にしたことを思い出す。
「忘れたんですか? 君の三つ上ですよ」
これも一年前と同じ返事だ。
「知っている」
何年経っても変わるはずなどない、当たり前のことだというのに、九郎は酷く悔しそうな顔で弁慶を見た。
九郎は同じ年頃の子供に比べ、随分と大人びている。
それは人の上に立つ宿命であったり、年の離れた者に囲まれているという環境によるものが大きいのだが、原因はそれだけではない。
九郎は、自分が子供であることに罪悪感を抱いているのだ。
兄が伊豆へ配流された時、幼さゆえに九郎は常盤のもとに留まる事を許された。
九郎がそれを知ったのは、つい数年前だ。
十二の年の差は、二人の人生を大きく隔てた。
もしも兄と同じ位の年であれば、同じように伊豆へ流されたかもしれない。
そうであったならば、兄とともに戦うことができたかもしれない。
兄の苦境を知らず、自分一人のうのうと生き続けた日々を、九郎は強く恥じた。
だから九郎は、子供である事を否定し、皆の前で大人びた振る舞いをする。
けれど、九郎の考えは完全なる妄想で、同じ年頃の男子が二人いたならば、清盛は迷うことなく幼い二人の命を絶ったに違いない。
今こうして期を待つことができるのは、九郎が幼くあった為だと弁慶は確信していた。
九郎の弁慶を見つめる目には、悔しさの影に深く不安が沈んでいる。
まるで、一人置いていかれることに脅える、幼い子供。
人前での大人びた仮面が剥がれた、年相応の少年の顔だ。
弁慶が今、九郎一人残してどこかへ行くなんて、それこそ杞憂だというのに。
「また、そんな顔をして……。 君は将となる人なのだから、常に冷静に、気持ちを表に出してはいけません」
人の上に立つ以上、感情的であってはならないと弁慶は思っている。
だから弁慶は、いつも九郎に冷静であれと諭した。
弁慶の困り顔の微笑に、九郎は顔を赤くして頬を膨らませる。
「何度も言わなくとも分かっている」
日々繰り返されるお小言は、ますます九郎の眉をしかめさせた。
「何度も言わせているのは九郎ですよ」
そっと頬に添えられた弁慶の手を、九郎が勢いよく払い落とす。
「うっ……うるさい」
最早、大人ぶることなど頭に無い九郎は鼻息を荒げ、弁慶を残して駆け出した。
本当は、九郎が他の者の前ではそうではないと、自分の前でだけ子供になるのだと、弁慶も知っている。
知っていてああ言うのは、弁慶自身の戒めだった。
自分だけに装う事無い顔を、仕草を見せてくれる幸せを認めてしまえば、もう抑えることができないから。
子供であることは罪ではない。
それでも、子供であることを許されるのは、あと僅かの間。
だから、今だけはこのまま。
「……僕も分かっていますよ」
走り去る九郎の後姿を、弁慶はやはり困ったように微笑んで見送った。
小原 さま
0211
弁慶さんのお誕生日に戴いてしまいました!!
当日は不○屋であんみつたべたり(ケーキが販売停止だったの)リベンジでケーキつきあってもらったり
していたのに、私が家にかえると美味しいデザートが!しあわせ。うふふ。
『まだ、恋心を自覚できないけれど、ほのかな想いが透けてみえるような九弁』の
このたまらん初々しさがそそりますvv
こはさんありがとうございましたvv
2007/03/08-