すい、と意識が浮上する。

暑気に当てられたのか、それとも酷く渇いた喉のせいか。
のろのろと身体を起こせば、蔀戸の間から差し込んだ夜半の月が照らし出す
弁慶の姿が瞳に映る。

久方ぶりの戯れに疲れたのか、眠りの淵に深く沈んだ安らかな寝顔。
「……べんけい」

彼の、伏せられた瞼は苦手だ。
唯でさえ色白の素肌に青白い光を受けて瞼を閉じる。
その美しすぎる曲線は生を感じさせない。
ただ抜け殻のようにそこに横たわる姿にどうしようもない喪失感を感じるのは。

「弁慶」

この感情を強く喚起するのはいつ消え入るとも分からぬ戦乱の日々か。
……いやそれだけではないのだろう。
この男の中に潜む言い知れぬ儚さ故か……。


不意に、傍らにあるのに遠くなったような焦りを感じて
秘めたような微かな呼吸を辿るように唇を重ねた。
ゆっくりとその舌を吸う。
乾燥した唇を舐り、少しざらつく舌の表面を啜るとぴちゃりと水を含んだ音がした。

「……ん…くろ…?」
安穏とした眠りから無遠慮な口付けで引き戻された瞳は未だ、夢にけぶっている。


「……もう朝ですか…?珍しいな…君に起こされるなん…んっ……!」

言葉を遮るように、もう一度深く口付ける。
袷に手を差し入れ、胸の頂を弄ればひくりとその身が竦んだ。

触れれば、反応を示す。
その当たり前のことがなぜか酷く嬉しくてたまらない。
夜着の袷を力任せに開き、閉じられた両足を割る様に膝を差し入れれば、
ようやく夢から開放された弁慶の視線が不審に揺れる。

「……九郎…?どうしました?」
「……お前が…」

どこかに行ってしまいそうな気がした。
…などといっても、この男はいつもの微笑を浮かべて優しく否定するだろう。
そして、このまま何も告げずに無理に犯したとて、
小さくため息をついてそれを赦すだろう。

ならば……この手に掴んだ感覚を、抱きしめた感覚を噛み締めたい。
腕の中で善がる身体を、熱く蠢く最奥を実感したい。

酷く利己的な思想。肉欲にまみれた浅はかな願い。
けれど、つかみ所のない月の光によって落とされる影は深く濃く心を蝕んで止まない。

「……なんでもない」
「…なんでもって…ちょっ…」

だが、暴く手は止めなかった。止めることができなかった。
この手が解いた肌に青白い光が嘗めるように落ちる。
それがたまらなくて、ぎゅっと抱きしめる。

月が人を狂わせる、なんてよく言ったものだ、
明らかに尋常ではない焦燥に駆り立てられて、白い足を大きく割り開き、太股を撫でる。

静かにこちらを見上げる視線が、観念したように閉じられるのを
合図にもう一度深く口付けた。


 
020. 月光 

平泉妄想に唆されて無性にえろろ書きたい気持ちだったのです。
(↑の時期は明らかに神子に会ってからですが)
この後がっつりいきますよ!と思っていたのですが、ここで落とすほうがキレイな気がして
一旦アップ。ちょっと納得がいく形になったらえろろ追加します。
そのときはこっそり*印つけるので察してください(笑)

2009/03/08 harusame 
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