部屋の灯りを吹き消す瞬間、いつも少しだけ期待に似通った気持ちで
身をこわばらせる癖は一体何時からついたのか。
不意に浮かんだ自嘲。それはやんわりと揺らめき消える炎の陰から
掠めるように伸ばされる腕の存在を予感していたから。
視界を被う一瞬の闇。
次の瞬間に抱きしめられむせ返るように感じるのは、
自らの君主の、ひなたくさくて甘いかおり。
「…九郎…?」
「………。」
いつものように、
この行動の趣旨を問うため唇を開けば、指先で制される。
唇の形を辿るように這うその制止の真意も
近すぎて、いつもは真っ直ぐに射抜いてくるその双眸すら見えないけれど。
陳腐ではあるけれど、ことばで伝えきれない何かを分かって欲しいから
こんな風に腕の中に閉じ込めるのだろうか。
いつもより浅い呼吸と高い体温
"縋って欲しい"とばかりに彼の背に導かれる自らの手や
首筋に落とされる触れるだけのくちづけ。
その一つ一つが何よりも雄弁。
『戦いの中だけに生きる俺にはお前に気持ちを伝える言葉を持たないから』
………なんて。そんな幻想、馬鹿げている。
「……」
「……本当に、あなたは仕方のない人ですね」
「………。」
「そして、本当にどうしようもないのは僕のほうだ……」
この人は欺く言の葉を吐かない。
だからこそ、その秘奥を語らせたくて言葉をかけるけれど、
きつく結ばれた唇は、まるで彼の意思のように固く。
そのかわりに拘束ばかり強くされ息をつく胸と、心が苦しい。
その純粋さに、抱きしめられ、締め上げられる。
抗議も哀願も口にしようと試みるけれど、掠め取られる唇の熱さに
それは酷く無意味な事だと思えてくる。指先が、思考が痺れる。
最後の抵抗。軽くその背に爪を立てると、小首を傾げてこちらを見つめる。
ふわりと揺れる豊かな髪も、視線も、この身のすべてを絡めとるように熱くて
こうして紡がれる、のも悪くない。
ならば、その背に回した腕に力を込め、その胸に頬を埋め、
形すら持てないこの想いを伝えましょう。
貴方と同じ手段をもって。
『全てを欺きつづける僕も
君の純粋な想いに答られる言葉なんてないのですから。』