「ご褒美です」

嫣然と微笑みながら土に塗れた袴の上から舌を這わせる。
唾液がじっとりと布地に染み入っていく様が卑猥で、無垢な瞳に見せ付けるように
ゆっくりと舐り上げ、先端を愛撫した。指先でまだ柔らかい形を辿り、
そのまま口で咥え込むとざらざらとした埃と土の味に混じり、太陽の匂いがして眉を寄せる。

女を抱いたことなら何度もある。男だって。
ただ、自分の中に何か異物を入れるなど考えた事もなかった。
それも、ただ一度自分を負かした、何も知らない餓鬼などを。

「くそっ…!!…っく…!」

それにもかかわらず、悪い病が頭を擡げて、壊したい衝動はただ自らに注がれる。
何も知らずに与えられる快楽に抵抗を示しつつも目じりを染める子供に
この身体の奥深く、まだ偶然にも保持していたつまらないものを
奪わせるための動作。それは、酷く背徳の甘い香りがした。

何ももたないはずの身から、また一つ失う哀しみと安堵。
そして、これからこの子供をゆっくり蝕む、真実の毒の味に。

まだ無自覚であろう性を慈しみ育てながら、意地悪く微笑む。
…そう、この腕を離れた後、寺に戻りこの子供は知るだろう。
自分が、今までどのような意味を持って嬲られ続けてきたのかを。
その絶望と、これから知る蜜のような犯す快楽。
それらを拒絶できない、そして求められない苦悩に翻弄される辛さを。

「…可哀想に…。一度、楽にしてあげますよ」
「…っ、う…」

一瞬の限界から、永劫の矛盾への開放。
声を殺すことだけは覚えさせられているのか、
小さな欲望はいともあっけなく、そして静かに果てた。
荒い息を繰り返す肩と食いしばられた口元を
ただ無機質な目でぼんやりとみつめる。

「…んだ…お前は…」
「一体何がしたいんだ…!」

当然の激昂。でもそれすら快楽の前では朧げだ。
「…さあ…なんでしょうね……。ただ…」

瞳を細め、嘲りにも慈悲にも取れるであろう、曖昧な眼光で微笑んだ。

「殺されるみたいに犯されてみたかっただけなのかもしれませんね」

そう、それはただ。
たまたま刃を持ち出さなかった二人が、より深く傷つけあうための手段。


+ + + + + + + + + + 

「…く…っつ…!」

『ああ、自分はこの男に負けたのだ』とようやくこの瞬間に理解した。

断罪するように刺し貫く、青く、何も知らない雄が、
身体を食い破るように痛みを与える。
臓物を押し上げるような圧迫感と鋭い痛み。
額から脂汗が滲んだ。それが瞳に流れ込んだのかぐらりと視界まで歪み、
その情けない様にただ嘲笑う。

まだ小さい身体を跨ぎ、押さえ込むように咥え込む姿勢。
目の前の子供の顔は深く俯いたままで、
ただ押し殺した吐息だけが二人の間の空気を酷く濃いものにしていた。

薄布を剥ぐような好奇心に誘われて、震えて崩れそうな膝を叱咤し、
少しだけ上下すると、長い前髪の間から虚ろに覗く栗色の目線。
珠のようにぼんやりとこちらを見上げた。

「…ふ…うっ……あ……」

快楽と熱がじんわりと餓鬼の理性を侵食する。
もう、抗う事もやめたのか従順な子供はただ、息だけを荒くしながら
目の前で揺れる胸元に、おずおずと額を預けた。

「………な…」
唇から、啼き声のかわりにちいさな、ききとれないような言葉は漏れる。

「…あたたかいな……」

きゅっ、と地面に散らばった粗末な衣を握り締めて、そっと微かに。
零された呟きは乾いた心に波紋のように広がった。


寺に預けられた淋しい目をした子供
ぬくもりがほしくて、懸命に手を伸ばす
けれどその手は払われる事しか知らなくて
いつか目の前に晒されたものですら、諦めに似た気持ちを抱く


「………………愉しめばいい、ただ、何も考えず」

ただ、脂汗でぬめる掌をぎゅっと握りこみながら
紡いだ言葉は、一体誰に向けたものなのか。

一抹の悲しみを振り切り
背筋を舐め上げる激痛を堪えて、深く深く身体を落せば、
びくりと、強すぎる快楽に翻弄されその髪が、肩が、瞳が揺れた。

その様子を見て、無性に…。
気が遠くなるような局部と頭の熱さに、思考がおかしくなったのかもしれない。
衝動は、身体を不本意に動かした。

汚れたままの手を伸ばし、引き寄せた耳朶にそっと口付けを落とす。
それから、驚いて上げられた額に、見開かれた瞳に。
眦に浮かんだ涙を吸って、睫に舌を這わす。

むずがるようにか、そのしつこい愛撫を遠ざけるためか。
この身に伸ばされたその掌を繋ぐように絡めとって、
握り締めて、もう一度。

「愉しめばいい。この身体も…」

そう告げると、言葉を紡ぎそうだった口を、再開した腰の動きで封じる。
繰り返される単調な動き、気が遠くなるような痛覚の中で、ただ。

「…今は……お前だけのためにある」

なによりも、…掌に感じる熱だけが、沁み付くように離れない。

「そ…んなの…うそ…だ…」
拒絶されることしか知らない子供。
恍惚に途切れながらも、否定を止めることなど出来ない。

でも、繋がれた熱い手を、身体を引き剥がすこともできない。
それは、なぜかこの何もかもを持たない掌も同じで。

身体の中で脈づく別の生き物よりも、この身体を支配するのは
傷つけて、あわよくば壊して、と伸ばした手。
ひどい熱に焼け爛れるような錯覚のまま指と指を絡ませて。

「……っ……!!」

手の甲にきつく爪が食い込む瞬間、
身体の奥深くで灼熱がどろりとこの身の悲しみを焼いた。


+ + + + + + + + + + 

何も遺さなかった。
それは唯の戯れの証。一夜の悪夢のように目が醒めたら消えるものと。
ただ……振り返る。その閉じた瞼の下に隠された真意に、少しだけ興味を覚えたから。

吐精の後、崩れるように意識を手放した子供は、目が醒めたとき何を想うだろう。

ぼんやりとした眼差しで全てが幻だったと願うか、
哀しい色で思い知ったであろう自らの境遇を悲しむか、
それとも…図らずとも得たぬくもりの赫い残像に胸を痛めるのか。

次に開かれたとき…あの真っ直ぐな瞳はどのように曇るのだろう。
どこに行く当てもなく、迷い道へと戻る道すがら
そんな悪趣味な慕情に、酷く後ろ髪をひかれた。


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064.つないだ手 

すみませんでした!!!(スライディング土下座) 
九弁パラレル出会い編(変!)
九郎の初めての男は弁慶で、ついでに弁慶の初めての男も九郎でいいじゃないか
というコースアウト甚だしい妄想より。
このひみつ初体験がもとで、九郎は「こういうことははずかしいことなんだ」と強く意識し
後々弁慶さんを困らせるほどのウブッ子になってしまうと…。
いやー因果は巡るものですね。(くたばれ)

2006/10/30 harusame
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